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法話

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法話--平成27年10月--

四諦--苦諦その4 病苦その2 病気にならない生き方その25
―腸内フローラ― 腸内細菌の驚異

腸内研究の第一人者、藤田紘一郎先生によりますと、私たちが健康に生きるためは「腸内細菌」こそ最も気を遣うべき相手だといわれます。
今回は、その藤田先生の著書より、その腸内細菌と健康の関係について学んでみたいと思います。

腸を鍛え、そこに棲む細菌たちを元気にしてあげれば、宿主である人間も元気になれるという。
腸内細菌とは、たくさんのしあわせを授けてくれる愛すべき存在だという。
そんな愛しき腸内細菌たちが、私たちのお腹には棲んでいるのです。

では、なぜ腸内細菌が元気なら私たちも健康で幸せに暮らせるのでしょうか。
人が病気にならないために体内では免疫が常に機能していますが、その免疫の働きのおよそ70%を腸内細菌が築いているといわれるのです。

腸内細菌は、病原菌を排除し、食物を消化し、ビタミンを合成しています。
腸内細菌のバランスが乱れて腸が不調になれば、免疫がうまく働かずに万病が引き寄せられるのです。
腸が原因と考えられる病気は、脳から内蔵、関節そして心まで、体のあらゆる部位に及ぶとされていて、まさに腸内細菌の働きが免疫に深く関与していたのです。

人が幸福感を覚えるとき、脳内はドーパミンやセロトニンといった「幸せ物質」が分泌されますが、その前駆物資を合成して脳に送っているのも腸内細菌なのです。
ですから、腸内細菌がバランスよく多量に存在しないと私たちは健康でいられませんし幸せな気分にはなれません。
まさに「幸せ」を作っているのは腸内細菌だったのです。

一口に腸内細菌と言っても、驚くほどの種類と数があります。
詳細な研究によりますと、大腸には500種類以上、100兆個以上の細菌が棲息していて、一つひとつの細胞の重さは限りなく0に近いけれども、総重量は約1,5kgにも達するといいます。

腸管は、広げればテニスコート一面分もの面積を持つといわれます。
その腸の中では、多種多様な100兆個以上もの腸内細菌が集合体を作って生息していて、その眺めが、まるでお花畑(フローラ)のように美しいのです。
そこから、腸内細菌の集合体は、"腸内フローラ"と命名されました。

腸は単なる栄養摂取のチューブなのではなく、複雑な生態機能をつかさどる重要な器官であることがわかってきました。
腸こそ人体で最大の免疫組織であって、腸内細菌がその免疫組織を活性化していて、腸内細菌がいなければ、免疫組織は働くことができないのです。

腸内細菌は、体に悪さをする菌が侵入してくると、侵入者を排除するために攻撃を繰り返します。
食べ物も病原菌も体内に吸収されるのは腸からであり、腸内フローラがしっかり働いているから人は病気にならず健康でいられるのです。

よく「腸は第二の脳」といわれますが、藤田先生に言わせれば、腸の思考力は脳より上で、腸は脳よりはるかに賢いそうです。
腸には大脳に匹敵するほどの神経細胞があり、それは腸こそ脳の祖先だったことに起因しているそうです。

地球上に最初の生命が生まれたのは、今から約40億年も前のことですが、生物が最初に持った臓器は脳でも心臓でもなく腸だったのです。
脳ができたのは約5億年前と推定されていますので、生物は歴史上8~9割の期間を脳を持たずに生きてきたのです。

その悠久の時は、地上の生物が腸を中心に進化を遂げてきた歴史とも言い換えられます。
生物の進化を見てみると、最初に神経系ができたのは脳ではなく腸だったのです。
生物の始まりは腔腸生物であり、人類もまさにそこから進化してきたのです。

現代でも脳のない腔腸動物はたくさんいますが、彼らはどこから指令を受けて行動しているのかといえば、それは腸なのです。
腔腸動物から進化してきた人間も腸にたくさんの神経叢が集中していて、まさに腸こそ健康にとっての司令塔だったのです。

例えば脳は食べた物が安全かどうかは判断できませんが、腸にはそれができるのです。
食中毒菌が混入した食物でも、脳は食べなさいとシグナルを出しますが、腸は毒物が入るとそれを的確に判断し激しい拒絶反応を示します。
食べた物が安全かそうでないかは脳ではなく腸の神経細胞が判断していたのです。

安全でないものはすぐ吐き出したり下痢を起こしたりして、なるべく早く"ご主人様"の身体を中毒させないように反応を起こすのです。
このように脳から指令がなくとも、独自のネットワークによって命令を発信する機能を持っているのは、臓器の中でも腸だけなのです。

これは、ほかの臓器には見られない特徴で、腸はまさに脳の本家であったわけで、藤田先生が腸は脳よりはるかに賢いと言われる所以もなるほど納得です。
腸は「第二の脳」どころか「第一の脳」と呼ばれても良い存在だったのです。

最近藤田先生は、腸内環境の悪化がうつ病や不安神経症を促している可能性を示唆す研究結果を発表されました。
腸の健康は心の健康であると同時に、心の健康は腸の健康であると考えられるのです。
つまり腸と脳の健康は連動していることがわかったのです。

日本語には「腸(はらのわた)が煮えくり返る」とか「腹が立つ」「腹が据わる」「腹におさめる」「腹を決める」「腹を探る」など、「腹」のつく表現がたくさんあります。
それも、脳(心)と腸(腹)とが繋がっていることの表れでしょう。

だから、人は強いストレスを受けると、心にダメージを受けると同時に、お腹の具合も悪くなるのです。
過敏性腸症候群とか機能性便秘といった腸障害を起こします。
腸にはセロトニンの90%が存在していて、そのセロトニンの働きが身体と心の健康に重要な影響を与えていることがわかりました。

身体がストレスを受けると、腸は不安を打ち消すためにセロトニンを分泌します。
セロトニンが急激に増えると腸が不規則な収縮を繰り返し、男性は下痢になったり、女性は便秘になったりします。

腸内に危険な物質が入ってくると、腸内のセロトニンが働いて脳に危険な物質を胃から吐き出せと命令を出させると同時に、脳を介せず下痢という手段で体内から危険な物質を排泄しようとするのです。

人が幸せを感じるとき、脳内ではドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質が分泌されますが、ドーパミンは気持ちのモチベーションを高め、セロトニンは歓喜や快楽を伝える物質です。

これらの「幸せ物質」が不足すると、うつ病や気分の不安定化が起こりやすくなります。
特にうつ病との関係が深いとされるのがセロトニンです。
ストレスが腸内細菌のバランスを崩すことで幸せ物質であるドーパミンやセロトニンが不足し、イライラしたりうつ状態になったりするのです。

今、実に日本人の3~7%がうつ病ともいわれます。
特に30~50代の働きざかりの人のうつ病がとても多くなっています。
現代社会は実にさまざまな抑制、抑圧が渦巻くまさにストレス社会です。

そんなストレス社会にあって心の病に打ち勝つには、しっかりとした"腸内フローラ"を構築することがまず大事だと藤田先生は言われます。
それには腸内細菌の餌となる食物繊維を多く摂り入れ、腸内を絶えず"美しいお花畑"にしておくことです。

先生は、腸内の"畑"の状態が美しいか汚いかは糞便の質量でわかるといいます。
大便の量が大きければ腸内は良好であり、小さければ悪玉菌の温床だといいます。
「大便」は文字通り、腸からの「大きな便り」だったのですね。

合掌

曹洞宗正木山西光寺