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法話

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法話--令和2年2月--

新型コロナウイルス ―問われる真価 ―

中国武漢で始まった新型コロナウイルスは今や世界中に拡大し猛威を振るっています。
多くの国で緊急事態宣言が出され対応に追われていますが混乱は止まりません。 ワクチンもなく収束の目処もまったく立っていません。

WHOは警戒レベルを4段階のうちもっとも高い「非常に高いレベル」に上げたといいます。
ハーバード大学のマーク・リプシッチ教授が「来年までに、世界の40~70%の人々が感染するだろう」という衝撃的な予測をしました。
人類にとってまさに有史以来の大変な試練を迎えていると言ってもよいでしょう。

つい2ヶ月くらい前まで対岸の火事くらいに思っていたのが今や隣の火事どころか自家の軒先に類焼し、大混乱に陥っているのがわが国日本です。
後手後手の対応だという批判を受け安倍政権は支持率を10%以上も落としました。

これに危機感を抱いた総理は、官房長官や文科相などの取り巻きの反対を押して独断で全国の小中高への一斉休業要請という、起死回生の大勝負に打って出ました。
が、コロナへの危機感なのかor政権への危機感なのかは正直分りません。多分後者かな?

これに対し「場当たり的だ」「看護師や共働きの家庭に大きな負担がかかる」「社会を崩壊させる」「政権維持を優先した政治判断だ」などといった非難の声があがると、総理は「地域の実情にあった柔軟な対応で」とややトーンダウンしました。やはり場当?

この総理の唐突な判断には賛否両論が噴出していまが、一般世論はやや否定的に受け止めています。
しかし、ほんとうの評価が下されるのはまだ先のことです。
それが吉と出るかどうか微妙なところですが、総理が大きな賭けに出たのは間違いないでしょう。

ところで、驚くことに、中国ではこの安倍総理の判断にほぼ100%と言っていいほどの賛同と理解を示す意見があがっているとか。
今の中国では、日本の新型コロナのニュースに対して非常に関心が高いそうです。

それは、今回の新型コロナでは、中国の人々は日本に対して「特別な思い」を抱いているからです。
自分達の国が新型コロナの震源地であり、多くの中国人が日本でマスクを買い占めたりしたのにも拘わらず逆に日本から多くのマスクや支援を受けました。

そんな日本からの支援や応援に対し、逆に現在日本がマスク不足になっている状況に「とても申し訳ない」という気持ちを持っているとか。
そんなことで多くの中国人は日本に感動し感謝しているだけに、関心をもっているのでしょう。

日本のこれまでの「緩い対策」に多くの中国人はとても歯がゆく思っていたそうです。
それだけに、今回の安倍総理の決断に「よくやった!」という評価が上がったのです。
実際、SNSなどには、「ぜひ我々の経験や失敗を生かしてほしい」「武漢の二の舞を演じないでほしい」など、多数の応援の声が寄せられているそうです。

中国では、全国一斉に公共施設の閉鎖と、外出禁止、在宅勤務、学校の休み延長など、一連の強制策で厳格な措置の結果、これらの対策が奏功したのか、今になって武漢以外の地域では感染者がゼロになり、武漢でも治癒し退院する患者が増えてきて、やっとピークが過ぎ落ち着いた状況になってきたというのです。

そんな中国に対し、一方日本では市中感染が爆発的に進み、イベントや集会の中止、会社の在宅勤務、スポーツの無観客試合、ついにオリンピック開催の是非論まで出てきている始末です。

日常生活や経済にも深刻な影響が出てきています。
特に接客業や観光業への打撃はひどく廃業に追い込まれる旅行業者やホテル、旅館まで出ています。
経済的打撃は過去に類を見ない未曾有のものになることが予想されます。

また風評被害や思い込みから人権問題まで起こっています。
特に中国系の人や日本人など東アジア系の人に対しての他国からの拒否反応は強く、排斥運動にまで発展しています。

国内では、治療に携わっていた医療関係者が、「バイ菌」扱いやいじめなどを受けるとか、医療従事者の子どもが登園、登校自粛を求められるなどの事態も出ています。
自らの身を挺して医療活動に従事した人に対してのまさに理不尽で許し難い対応です。

ドラックストア店員が語っています。
「マスク不足になった頃から毎日毎日同じことを聞かれて、あげくキレられたり、優しかった人々が殺気立って、とにかくイライラをぶつけてきます。コロナよりも怖いのは人間、正直ノイローゼ気味です」

マスクに限らず既に日用品や食料品の買い占めも始まっています。
集団パニックの始まりです。パニックになると「他人の身になって考える」「相手の立場を尊重する」「困った人や弱者を慮る」・・・そんな冷静な判断ができなくなります。

パニックになると感謝や思い遣り、譲り合いなどのゆとりはなくなります。
いがみ合い、奪い合いが起こり、憎しみや暴力の社会になっていきます。
そんな世界がすなわち、餓鬼、畜生、修羅の世界です。
コロナより怖いのは、むしろそんな社会です。

非常事態の時こそ「人が試される」のです。
日本からの支援に感謝を伝えたいとの心境を語っている在日中国人のエピソードをネットチューブで見かけましたので紹介します。

仙台市で漢方薬局を営む候殿昌(こう・でんしょう)さん。
日本の医学を学ぼうと東北大学に留学。以来、仙台で26年間暮らす在日中国人です。
「マスクをはじめ医療用品を送ってくれて、今中国では日本政府と国民に感謝一色です」と述べています。

候さんが思い出すのは東日本大震災の時の日本人の姿だったと言います。
「日本人はスーパーでもガソリンスタンドでも並んでいる。一人でたくさん買う人がいない。でも中国人は、並ばないとか、大量に買い占めるとかします」

そんな一連の中国人の行動は日本と中国の溝を深めかねないと心配する候さんはあるエピソードを話してくれました。
それは、中国の文豪・魯迅と東北大学の藤野厳九郎教授との交流の話です。

日清戦争で日本に敗れた中国を蔑視する風潮があった頃、日本にやってきた魯迅は留学先の東北大学で孤独を抱えていたといいます。
そんな時、魯迅に対し熱心に指導を行ったのが藤野教授でした。

人種の壁や国民性の違いではなく、人と人がつながる事の大切さを教わったと言います。
「私から見るとこれは両国にとって大事な財産ですね」 候さんが仙台で漢方薬局を営む理由、それは、中国人である自分が日本の人たちに役立つ存在でありたいと思うからだと話します。

戦後これまで、日本と中国の関係はお互い不信と憎しみが先行してきましたが、今回のコロナ感染を通して、思い遣りと感謝の感情が交差するようになりました。
日本からの「山川異域 風月同天」のメッセージが中国の人々に感動を与え、両国の関係改善が一層進むことを期待します。

人も国も、「想えば想われる」関係にあるのです。
思い遣りはお互いをしあわせにします。
非難や憎しみからは否定と破壊しか生まれません。
特におとなりのK国には是非見習って欲しいものです。

この先、このコロナがいつまで続くのか分りませんが、物事には必ず終息があります。
そのとき評価されるのが各国それぞれの対応です。
総括され評価された反省と課題は歴史に残ることになるでしょう。

今世界が日本を注視しています。あの日本が一体どんな対応をみせるのかと。
東日本大震災の時見せた日本人の冷静さと秩序と思い遣りは世界を感動させました。
今回も日本人は同じようにこの非常事態を立派に乗り切る筈です。

また再び日本人の民度と底力を見せるときです。加油! 日本!

合掌

曹洞宗正木山西光寺