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法話

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法話--平成29年2月--

反菩提心 -自分ファースト-

相変わらずアメリカを中心にトランプ旋風が吹き乱れています。
アメリカの分断は一層深まっています。日本にとっても他人事ではありません。
もう少し「トランプ占い」をしてみましょう。

トランプ大統領の就任演説は、従来の大統領の演説に比べて、型破りのものでした。
アメリカの理想を語らず、民主主義の大切さにも触れず、「アメリカ・ファースト」を連呼したからです。

もちろんアメリカの大統領ですから、アメリカを大事に思うのは当然ですが、よその国はどうでもいいという感じがありありの演説でした。
自国(アメリカ)さえ良ければ、他はどうでもいいという「アメリカ・ファースト」。

自分を支持する人だけがアメリカ人であり、自分にとって不利になるものはすべて排除するというのは「自分ファースト」であり、まさに「利己主義」です。

前回、アメリカの「自由の女神」の精神は、仏教の「慈悲の精神」である「菩提心」に通じていると述べました。
「菩提心を発(おこ)すというは、己未だ度(わた)らざる前(さき)に、一切衆生を度さんと発願し栄(いとな)むなり」(道元禅師)

ひとことで言えば「自分よりも先ず他人のために」というのがすなわち「菩提心」です。
その精神から言えば「利己主義」はまさに「反菩提心」と言えるのです。

トランプ氏の言動はまさに「反菩提心」です。 世界一強大な権力を手にし、客観性を欠く発想で、人種、国籍、宗教などさまざまな立場によるレッテルで、人権を制限する命令を発しています。

しかも入国を制限した7カ国は彼のビジネスが展開されていない国ばかりとなれば、何をか言わんやです。国内はもちろん世界中から反発を浴びるのは当然です。
まさに「利己主義」そのものです。

大統領就任式では、最高裁判所長官の言う通りの宣誓の文章を読み上げます。
宣誓の最後は「神の御加護を」の言葉で終わります。
アメリカはキリスト教の国として建国されたからです。
アメリカの紙幣には「私たちは神を信じる」と書いてあるほどです。
アメリカ大統領にはそんな矜持が求められるのです。

トランプ氏の「アメリカ・ファースト」は、その実「自分ファースト」なのです。
人の話を聞こうとしない、真実に目を向けようとしない、自分さえ良ければいい、他人は後回しというのは「利己主義」であり「我欲」以外の何物でもありません。

「我欲」は煩悩の中の三悪道、貪・瞋・痴の貧(とん)に値します。
「貧」についてはこれまで何度も触れてきたことですが、人が不幸になる最大級の「悪業」「悪徳」なのです。

そんな我欲に満ちた「自分ファースト」ですから公私混同なんのその、トランプタワーに住むメラニア夫人や家族の警備に、ニューヨーク市当局は一日50万ドル(約550万円)もの経費を負担しているとか。

就任約一ヵ月でフロリダの別荘に3週間滞在した経費が約一千万ドル(約11億円)とか。
トランプ氏の一家の警備などにそんな巨額の公費が投じられたのです。
その中には安倍総理が仲良くゴルフをして過ごした経費も入っています。

歴代大統領が利用してきたワシントン近郊の大統領山荘キャンプデービットや周辺のゴルフ場を使うべきでしょう。
国民の税金を少しでも無駄に使わないというのが「アメリカ・ファースト」ではないでしょうか。

トランプ氏の「自分ファースト」から出てくるものはどれも今までアメリカが築き上げてきた民主主義の精神に反するものばかりです。
連邦裁判所の判断を批判したり、前オバマ大統領が目指した反軍拡や非核の方向とは真逆の方向に進もうとしています。

最近なんと核戦力増強論まで唱え始めました。
さらに、年間軍事費を540億ドル(6兆円)規模増額しようとしています。
その額日本の年間防衛費の額とほぼ同じだとか。
そのために福祉や補助金が削られたら「格差」は一層進むだけです。

常識人であるほど良識があります。
ましてや世界をリードするアメリカの大統領ほど高い良識と見識が求められる地位はありません。
アメリカの「良識」が、トランプ氏の得意とする「You are fired!」(おまえは首だ)と彼に引導を渡すのはいつになるのでしょうか。

仏教の因果の教えを知らなくとも「悪い事をすれば悪い結果が返ってくる」というのは論外の常識です。
そんな常識のない大統領と馬が合う安倍総理も同じような「自分ファースト」で「利己主義者」なのかもしれません。

大歓迎され「ドナルド、シンゾウ」などと呼び合う程親密な間柄になったと自慢して帰ってきましたが、同じ「自分ファースト」でも相手は格が違います。
トランプ氏からみたら、日本の総理など煽てて利用することしか考えていません。
親密になるほど相手からの要求は断れなくなるのです。

衆議院議員の亀井静香氏も「トランプ氏が『「米国中心』の主張を変えたら大統領でいられなくなる。安倍総理がゴルフで仲良くするのはいいが、トランプ氏が日本に対して手を緩めることはない。
『米国を受け入れてもらい感謝する』と言ったが、それなら『この際基地や日米地位協定の問題を解決しよう』と突っ込んでいかなきゃいかん。それが交渉術というものだ。『トランプさんのおっしゃることは全部ありがたい』というのはばかげている。」と言っています。

トランプ氏は「フェイクニュース」、つまりウソのニュースで大統領選に勝ったようなものです。
その手法は大統領になってからも衰えません。
ウソを平然とつき矛盾を指摘され、多くのマスコミを敵にしても憚りません。

ウソは本人が一番自覚しているのです。仏教の戒律に「不妄語戒」があります。
ウソは四番目に重いという戒律です。
ウソはドロボウと始まりとも言いますが、ウソを平然とつける人は確信犯的な悪人です。

それに似たウソを平然と主張する為政者は日本にもいます。
トランプ氏の子分になった安倍総理です。
安倍総理は「テロ等準備罪」がなければ東京五輪を開けないと主張していますが、野党は、いまある法律でも対処できると反論しています。
日本弁護士連合会も、「テロ対策は既に十分国内法上の手当てはなされており、共謀罪の新設は必要がない」と主張しています。

「テロ等準備罪」というネーミングになっていますが、それは過去3度も廃案になった「共謀罪」というまさに天下の悪法の焼き直し版なのです。
安倍総理はまさに“4度目の正直”を目指しているのです。

政府は東京五輪テロ対策と言っていますが、それは、国家による国民の監視や盗聴の強化が目的であり、憲法で保障する表現の自由など基本的人権をないがしろにする実に恐ろしい悪法なのです。

安倍さんの目指すのは戦前の体制と同じような国家主義です。
国民は国家のためにあるというのが国家主義で、それはまさに立憲主義とは真逆にあるものです。
国民を「人間の盾」にし「人柱」にするのが「国家主義」です。

そういえば、太平洋戦争で戦死した兵士に国から与えられた戒名の多くに「国柱院~」が付けられていますが、「国の柱」の意味が皮肉にも「人柱」だと解釈されてもおかしくありません。
そう思うと亡くなった兵士はとても哀れで浮かばれません。

安倍政権は、「安保法制」や「特定秘密保護法」を次から次へと数の力で押し切ってきましたが、その目的はまさに戦争をし易くするためです。
「共謀罪」はその「総仕上げ」になるのです。

「共謀罪」は日本が法治国家でなくなる危険性をはらんでいるのです。
絶対に阻止しなければならないのです。
誰が、いつ、どこで何をたくらむのか。四六時中、網を張り巡らせて国民を監視するための法律です。

国民は見えない壁に囲まれつつあるのです。見えていないから国民は抵抗しません。
この忌わしい壁が見えるようになるのは、実際に紛争や戦争が起きた時なのです。
その時はもう完全に手遅れなのです。
我々国民は今こそ平和ボケしている暇ではないのです。

合掌

曹洞宗正木山西光寺