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法話

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法話--平成29年1月--

年頭所感 -トランプ占い-

新年おめでとうございます。
皆様方のご多幸を祈念申し上げます。
お蔭様で当山のホームページも13年目に入りました。
本年もよろしくお願い致します。

それにしても今年はどんな年になるのでしょうか。
新年早々アメリカではトランプ氏が大統領に就任しました。
しかし、就任式から世界各地では数百万人もの反トランプデモが起きました。
こんなことは過去に例のないまさに異常な事態です。

「アメリカ第一主義」を掲げ、「協調より国益」を主張して憚らない、実に傲慢で過激なまさに暴君的な人物です。
就任から一週間で早速14もの大統領令を出しましたがどれも尋常なものではありません。
常識派からすれば黙っていられないところでしょう。
まさにアメリカ社会が"分断"しまった感じです。

就任早々の大統領令はどれも非常識的なもので、"トランプ旋風"となって世界中に衝撃を与え戸惑いと不安を引き起こしています。
"トランプ旋風"が世界を翻弄する台風の目となり、予測のつかないような荒天が予想されます。

アメリカは、建国以来自由と民主主義を掲げてきた移民に寛大な多民族国家であり、多様性と寛容性が保たれてきた、文字通り「合衆国」なのです。
ニューヨークにある世界遺産「自由の女神」には次のような詩が刻まれています。

疲れ果て、
貧しさにあえぎ、
自由の息吹を求める群衆を、
私に与えたまえ。

人生の高波に揉まれ、拒まれ続ける哀れな人々を、

戻る祖国もなく、
動乱に弄ばれた人々を、
私のもとに送りたまえ。
私は希望の灯りを掲げて照らそう。
自由の国はここなのだと。

民主主義国家の象徴的存在として常に世界をリードしてきた筈のそんなアメリカが、今回何故そんな"暴君"を大統領に選んでしまったのでしょうか。
確かにロシアのサイバー介入とか、フェイクニュースなどが飛び交ったりして大統領選が「操作」されたという情報もあります。

選挙の投票数の実数ではクリントン氏の方が133万票程上回っていたとか。
選挙制度の結果から仕方ないにしても、多くの常識派にとっては受け入れられないところでしょう。
彼を大統領として認めないという人も多く、支持率も過去最低の40%台だというのもその表れでしょう。

"分断"の体をなしているアメリカですが、問題はトランプ氏を支持しているその4割の人達の本音こそ今のアメリカが抱えている問題を表しているのではないでしょうか。
また、グローバル社会である以上これは単にアメリカだけに止まらない問題だとも言えるのです。

その問題こそ、ズバリ「格差」問題、貧困問題です。
アメリカでは、中流層がどんどん消えていて、上か下かに分かれる社会になってきているのです。

その理由は富裕層が猛烈なスピードで収入や資産を増やし、貧困層はそのまま置いてけぼりにされているのです。
アメリカの一流企業の経営者の平均所得と、ごく普通の労働者の平均所得の格差はすでに343倍の開きになっているとか。

アメリカの経営者の収入は主に株式で提供される収入です。
弱肉強食の資本主義は、「株式至上主義」になってしまっているので、株を持っている者といない者との差が凄まじい勢いで「格差」を広げているのです。

貧困層は、リーマンショック以前よりも増えていて、リーマンショックを乗り越えたのは企業と富裕層だけで、アメリカは「1%の富裕層と99%の貧困層の国」だといわれています。
上位1%が持つ資産は、下位90%が持つ資産の総量よりも多いのだとか。

日本でも「子供の貧困」が問題になっていますが、アメリカの「子供の貧困」は日本の比ではなく、アメリカの6歳以下の子供の約60万人がホームレスだとか。
親がワーキングプア層で病気や事故で働けなくなると、途端に子供を抱えて路頭に迷うことになるのです。

そしてアメリカは日本以上の学歴社会と化しつつあるので、貧困の子供は貧困であるがゆえに高収入に最初から辿り着けなくなっているのです。
貧困は遺伝するので伸し上がれない。
アメリカはすでにそんな社会になってしまっているのです。

だから、どの国もグローバル化の中に存続している以上、アメリカで起きていることが、そっくりそのままどの国にでも起こり得るのです。
アメリカの現象は着実に全世界を覆い尽くしていくでしょう。

現にイギリスでもフランスでもアメリカとまったく同じ格差問題が起きているのです。
イギリスでは2000万人が貧困状態であり、子供の5人に1人がホームレスだとか。
若者の失業率も高く、やはり金銭的な問題で大学進学もできない家庭も多く、アメリカと全く同じ問題が起こっているのです。

当然日本も例外ではありません。
日本でもすでに6人に1人が貧困という事態になっています。
当然子供の貧困も同じです。
生活保護の受給世帯数は毎年最多を更新しており、貧困層は着実に増えており、止まることなく、激しい勢いで超格差の容赦ない現実が進んでいます。

働いても働いても這い上がれない非正規雇用。低賃金で結婚もできない。
一流会社であっても過労死。希望などもてない、疲れて死んでしまいたいと思うような社会。日本もこれまで以上に苛烈な社会になろうとしているのです。

国際貧困支援NGO「オックスファム」はこの1月15日、世界で最も裕福な8人が保有する資産は、世界の人口のうち経済的に恵まれない下から半分に当たる約36億人が保有する資産とほぼ同じだったとする報告書を発表しました。

世界の総資産額ランキングのトップは、言わずと知れたマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏で、その資産は約9兆1千億円だとか。
ランキング上位の殆どをアメリカ人が占めています。
ちなみに日本人のトップは世界ランキング41位でユニクロ柳井正社長で、総資産額約2兆3千億円だとか。

同じ人間でありながらなんとも比べようもないほどの格差です。
産業革命以来世界の経済と富を牽引してきたアメリカが、今では格差社会の"先駆け"となってしまいました。
アメリカはこれから先どう舵を切るのでしょうか。

そんなアメリカが今求めているのは「変革」です。
只の変革では意味がありません。
よほどの変革でなければ何も変わらないことを国民はわかっています。
そんな中出現した"暴君"トランプ氏に多くの人が期待を寄せたとしても不思議ではありません。
「背に腹は代えられぬ」…自由と民主主義の旗頭としての誇りはもう要らない。
今のアメリカはそこまで追い詰められてしまったのでしょうか。

「衣食足りて礼節を知る」ということわざが日本にあります。
人は生活の安定があってこそ礼儀や道徳心を弁えることができるということですが、貧困がグローバル化するなかで、世界から正義や礼節が失われていくのでしょうか。

国家国民の運命はその国の為政者に託されます。
トランプ氏が「自由の女神」の精神を知らないとは思えません。
問題はトランプ氏ではなく、彼を選んだアメリカ社会に問題があるということです。

ただ言えることは、人であれ国家であれ、独り善がりでは絶対に良い結果にはなりません。
トランプ氏にも国民にもアメリカの誇り「自由の女神」の精神をもう一度考えてみて欲しい。

さらに、その謳われている精神こそ、仏教精神「慈悲の精神」まさに「菩提心」と一致していることを、すべての国の人に知って欲しいものです。

合掌

曹洞宗正木山西光寺